判例について

最高裁第3小法廷平成13年3月13日判決(遺言の解釈)

2022.08.24

今回は、以下の最高裁判決を解説します。

最高裁第3小法廷平成13年3月13日判決
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/406/062406_hanrei.pdf

1 事案の概要

「被相続人A所有の不動産である~○丁目○番○号をXに遺贈する。」旨記載されていた遺言書の解釈が問題となった。

遺言書の不動産とは、①土地・建物を含むか、②土地のみか、③建物のみか、が明らかではなかった。
なお、上記不動産の所在表示は、土地の登記簿上の住所とも建物の登記簿上の住所とも異なり、Aが長年居住していた自宅の住居表示と一致していた(なお、正確には、土地・建物のAの共有持分(1/2)が問題になった)。

2 裁判所の判断

(1)第1審(東京地裁)

・結論
遺言書の不動産は、土地・建物も含む(①)、とした。

・理由
遺贈の目的物の特定としては不十分だが、Aの財産はこの不動産のみで他に同一性を混同するような財産は見当たらないため。

(2)原審(東京高裁)

・結論
遺言書の不動産は、建物のみ(③)とした。

・理由
住居表示は法律的には建物の表示であり、土地建物はAの自宅兼Y(相手方)の経営する会社の事業所として用いられていた。遺言書作成当時の事情から土地をXに遺贈する意思を有していたとは言えないため。

(3)最高裁

・結論
遺言書の不動産は、土地・建物も含む(①)、とした。

・理由
遺言書は土地を遺贈の目的から明示的に排除した趣旨ではないこと、遺言書の記載から合理的に解釈できるため、遺言書作成当時の事情を遺言書の意思解釈として根拠とするべきではないことから、土地・建物を一体として遺贈する意思を表示していると解釈するべきである。

3 弁護士の雑感

以前に解説したとおり、遺言の解釈にあたっては、遺言書の記載に照らし、合理的に解釈することが求められます。

今回の遺言書は、目的物の特定として不十分であり、不明確と言わざるを得ません。おそらく専門家に相談しながら作成したものではないのかもしれません。
紛争事案では、遺言書の記載内容が明確であるかは特に気を付けなければならず、自筆証書遺言のリスクが顕在化した事案でした。

最高裁が、記載内容を厳格に解釈するのではなく、広く解釈した点や、事例判決ではありますが、遺言書の文理解釈と遺言外の事情(例えば、遺言書作成当時の事情)の関係性について判断した点は重要といえるでしょう。

武雄オフィス所長 弁護士 矢野 雄基

(参考文献:「判例タイムズ1059」64頁)

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