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東京高裁昭和61年6月18日判決|遺言の「まかせる」の解釈が問題になった事例(遺言の解釈)

2022.09.07

今回は以下の東京高裁判決を解説します。

東京高裁昭和61年6月18日判決

1 事案の概要

「被相続人Aの財産は全部Xにまかせる」旨記載された自筆証書遺言の「まかせる」の解釈が問題になった。「まかせる」という文言につき、Xは遺贈であると主張し、遺言執行者Yは遺贈する意思を表示したものではないと主張した。

2 裁判所の判断

(1)第1審(さいたま地裁(当時は浦和地裁))

・結論

「まかせる」は遺贈というべきである。

・理由

XはAの身辺の世話をしており、Aは入院する際に再び生きて自宅に戻ることはできないかもしれないと考え、Xに渡したと認定した。

(2)控訴審(東京高裁)

・結論

「まかせる」は遺贈する意思を表示したものではない。

・理由

「まかせる」という言葉は、本来、他の者に委ねて自由にさせる、ことを意味するに過ぎず、「与える」(自分の所有物を他人に渡して、その人の物とする)という意味を全く含んでいない。
Xは時折身辺の世話をする関係にとどまり、Aの全財産を遺贈してでも感謝の気持ちを表すのが当然であるといえるような関係ではなかった。

本件遺言書の作成以前、Aは妻に全財産を与える旨の自筆証書遺言を作成していた。

本件遺言書は、ごく粗末なメモ書きといった体裁でしかなかった。

3 雑感

遺言の解釈にあたっては、遺言書の記載に照らし、合理的に解釈することが求められます。今回の遺言書は、「まかせる」(=任せる)の意味が問題になりました。遺贈は、遺産の所有権を受遺者に譲渡するものなので、「任せる」という文言が所有権の譲渡という意味までを含んでいないとする東京高裁の判断は妥当と言えるでしょう。

現在では、遺言書に「遺贈する」と明記するのが実務の運用です。

◆参考文献 判例タイムズ621号/141頁

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