判例について

東京地裁令和3年8月16日判決|遺言の「現金」に預金が含まれるかが問題となった事例(遺言の解釈)

2022.09.28

今回は以下の東京地裁判決を解説します。

東京地裁令和3年8月16日判決

1 事案の概要

被相続人Aは、「不動産1はZ(長男)に相続させる、不動産2はX1(長女)に相続させる、現金はZ(長男)に3分の1、X1(長女)に3分の1、X2(孫・X1の長女)に3分の1を遺贈する」という自筆証書遺言を作成した。しかし、AはY(金融機関)に預金を有しており、遺言記載の「現金」に預金が含まれるかどうかが問題となった。

2 東京地裁の判断

・結論

遺言記載の「現金」に預金が含まれる。

・理由

Aは1000万円以上の預金を有しており、遺言の対象から除外されていることに合理的な理由は見当たらない。
「現金」につき、日常の生活費以上に保持していた様子はうかがえない。
預金は現金化が容易であり、一般的には現金と同視されやすい。

→ 遺言書作成当時、現金と預金の区別を意識せずに「現金」という文言を使用したと考えるべきである。

3 雑感

本判決は昨年に言い渡された最新の裁判例ですが、ここでも遺言の解釈について、最高裁昭和58年3月18日第二小法廷判決(判時1075号115頁)(「遺言の解釈②」で紹介しました)の判断枠組み(=「文言を形式的に解釈するだけではなく」、「遺言者の真意を探求し当該条項の趣旨を確定すべき」)を引用しています。

一般的に、現金は手元等で保管している通貨(紙幣・硬貨)を指し、預金は金融機関に口座を開設して資金を預けることを指しますので、その意味は本来異なります。

日常の生活費を超える現金を保持・管理している等の事情が存在しなかったことが、本判決の結論に導いた大きな理由でしょう。もし、相当額の現金を預金とは別に管理している等の客観的な事情があれば、結論は変わっていた可能性があります。

◆参考文献 金融法務事情 2182号/88頁
◆キーワード 遺言、自筆証書遺言、遺贈、遺言の解釈

問題解決に向けて、全力を尽くします。まずはお気軽にお悩みをお聞かせください。

  • 0952-41-9210

    0954-20-1455

  • メールでのご相談はこちら