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遺言の解釈(3)【最高裁 昭和58年3月18日第二小法廷判決】「遺贈」について

今回は、前回の【最高裁 昭和58年3月18日第二小法廷判決】で触れられた「遺贈」について紹介します。

遺贈とは

遺贈とは、被相続人が遺言によって、遺産の全部または一部を他人に譲渡することをいいます。
遺贈は、「包括遺贈」か「特定遺贈」という遺贈の対象となる目的物の特定の有無で法律効果が異なり、また、遺贈に「条件」や「負担」を付けるか否かで法律効果が異なります。
今回は、後者に関するものをまとめています。

遺贈の種類

▼負担付遺贈

負担付遺贈とは、受遺者(遺産を受け取る側)に一定の法律上の義務を負担させることを内容とした遺贈です(民法1002条1項)

例えば、「遺言者Aの財産をBに譲る。その代わり、BはAの妻C(受遺者)に対し、Cが亡くなるまでの間、生活費として、毎月15万円を支払え。」という遺言があるとします。この「その代わり~」は、受遺者Bが法律上の義務を負う内容となりますので負担付遺贈にあたります。
仮に、受遺者がその義務を履行しない場合は、相続人は、相当の期間を定めて履行の催告をして、その期間が経過したとき、遺贈の取消しを家庭裁判所に請求することができます(民法1027条)

(※)裾分け遺贈とは
負担付遺贈の一類型として、裾分け遺贈があります。例えば、「遺言者Aは2000万円をBに遺贈する。Bはそのうちの200万円をCに与える。」のように、受遺者Bが遺贈の一部を受益者Cに与える義務を負わせた遺贈を裾分け遺贈といいます。

▼条件付遺贈、期限付遺贈

条件付遺贈とは、遺贈に「停止条件」や「解除条件」が付けられている遺贈をいい、遺贈の効力が発生(または消滅)する条件が定められています。

例えば、「Bが30歳になるまでに婚姻したときには、遺言者Aの財産をBに譲る」という遺言は、Bが30歳になるまでに結婚できていれば、受遺者になることができ、結婚できていなかったら受遺者にはなれないという条件が付されています。

期限付遺贈とは、遺贈に「始期」(令和〇〇年〇〇月〇〇日が経過したとき、遺贈する)、終期(令和〇〇年〇〇月〇〇日まで、毎月金〇〇万円を遺贈する。)が付されている遺贈です。

(※)補充遺贈
条件付遺贈の一類型として、補充遺贈があります。例えば、「遺言者Aは2000万円をBに遺贈する。ただし、Bが拒絶した場合は、2000万円をCに遺贈する」という遺言は、Bへの遺贈の効力が生じないことが、Cへの遺贈の効力が生じる条件となっていることから、停止条件付遺贈の一種と考えられています。

▼後継ぎ遺贈

最後に後継ぎ遺贈を紹介します。

後継ぎ遺贈とは、例えば、「遺言者Aは不動産をBに譲る。Bの死亡後は、不動産をCに遺贈する」というものです。受遺者Bへの遺贈の効力が発生したことにより、いったん受遺者Bに不動産の権利は帰属しますが、受遺者Bが死亡したとき、その不動産は受遺者Bの遺産になるわけではなく(つまり、その不動産はBの遺産としてBの相続人が遺産分割をするわけではありません)、遺言者Aが指定する受遺者Cに不動産の権利が移転するというものです。
補充遺贈と似ていますが、補充遺贈の場合は、受遺者Bへの遺贈の効力は生じないので、この点で異なることになります。

後継ぎ遺贈の効力については、有効説、無効説がありますが、無効説が通説であるといえるでしょう。

  1. 受遺者Bが不動産を処分した場合や受遺者Bの債権者が不動産を差し押さえたときの権利関係が複雑、不明瞭であり、
  2. 受遺者Bに不動産の権利が帰属しているのに、受遺者Bが死亡したときに、遺言者Aから受遺者Cに不動産の権利が移転することの根拠が見出せない

等が理由になります。遺贈を規定した民法では、後継ぎ遺贈の法律構成を整理するのは限界があるということです。

相続法改正の議論の際に、後継ぎ遺贈に関する規定を設けることが検討されたようですが、賛否の意見が対立したため、規定は設けられないことに決まりました。

後継ぎ遺贈に関係する裁判例として、最高裁昭和58年3月18日第二小法廷判決昭和58年が紹介されることもありますが、同判決は後継ぎ遺贈の効力の有効性について判断しているわけではありません。
なお、信託法において、受益者連続型の信託を設定することが可能になりましたので、この後継ぎ遺贈のニーズは、実務上、信託で対応しています。

まとめ

このように、遺贈といっても多数種類があり、遺言の表記の仕方が少し違うだけで、法律効果が異なります。また、表記の仕方を間違えてしまうと、効力として認められない場合もありますので、気をつける必要があります。
次回は、遺言の解釈において「遺言書外の事情をどこまで考慮することができるのか」について紹介したいと思います。

武雄オフィス所長 弁護士 矢野 雄基

【参考文献】
「遺言と遺留分 第1巻 遺言」P305~P341、P355~P377
「詳解相続法」P459~P475

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